幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
信じがたい言葉に、譲は無言で首を振りながら後ずさる。
冷静にこの状況を判断できる頭の余裕がなかった。
文字通り白紙状態で、何も書くことができない。
完全に思考回路が途絶えてしまう。
「嘘よ」
無意識に口を衝いて出たのはそんな言葉。
必死に首を振り、譲は顔面蒼白のまま二人から距離をとる。
近藤さんと土方さんのことをきちんと見れなかった。
「だって……私……」
頬を伝う雫。
「お願いします!浪士組(ここ)にいたいんです!私の……私の何が至らなかったんですか⁉︎ 全部直しますから!家事も隊務も全部怠りません!ですから……!」
「だから帰らせるんだよ!」
土方さんが鬼の剣幕で激しい怒号を上げる。
「お前はここにいたら、俺らのために無理をする!お前のためにならねぇんだよ!」
「違う!みんなといることが私の幸せなんです!」
譲は勢いよく立ち上がると、叫んだ。
「嫌です……!」
涙の雫が宙をふわりと舞う。
「嫌です!絶対に帰らない!私は近藤さんや土方さん……浪士組(ここ)を護るためなら、剣になる!この命なんて、惜しくない!」
「っ!!!!」
パシンッ!
乾いた音が部屋に響く。
それは一瞬だった。
ただ、怒りに満ちた近藤さんが手を上げ、譲の頬を捉えた。
強い衝動に、譲は何が起きたか分からない。
目を大きく開き、身体が言うことを聞かなかった。
土方でさえも、この事態が飲み込めていなかった。