幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
前を見ずにただうつむきながら走っているその時だった。
「っ!」
門を出ようとすると、突然人影が見えたが、譲は止まることができずに、思い切りぶつかってしまった。
後方に尻もちをつき、派手に倒れる。相手の方もぶつかった衝撃で地面に倒されたようだった。
譲は急いで姿勢を戻し、砂を払うと、相手に駆け寄った。
「すみません!前を見ていなくて……」
手を差し伸べると、その女の人は顔をあげた。
「いいえ。こちらこそ、えらいすいまへんでした」
はんなりと気丈に振る舞う、とてもきれいな女性だった。
白い肌に流している髪、淡い群青色の着物がよく似合っていた。
そんな女性の手を取り、譲は気付く。
女性の細い手首が赤く腫れていた。
おそらく先ほど倒れた時に手首が変に地面に着いたのだろう。
譲は優しくその手を引いた。
「あの……、手当をするのでこちらへ!」
「かまいまへん。そない大したものやないどすから」
「いえ、このままでは帰せないです!」
申し訳無さそうに断る女性をよそに、譲は女性の手を引くと、屯所の隣にある壬生寺の境内に女性を座らせると、走って水を汲みにいった。