幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
しかし、原田たち十番組は譲を見つけることは叶わなかった。
土方の言う通り、全員で京を探したが、一向に見つかる気配はなく、日没を迎えた。
息を切らして屯所に戻ってきた平助が声を上げる。
「くっそ……!あいつどこ行ったんだよ!」
これには原田もやれやれと首を振る。
「あいつが行きそうなところは全部まわった。知り合いがいるわけでもねぇのに、どこをほっつき歩いてんだか」
「いや、知り合いがいねぇとも限らねえ。譲は美人だからな、男を一人や二人、侍らせているのかもな」
真剣にとんでもないことを言い出す新八に平助が素早く訂正する。
「んなわけねぇだろ!譲がそんな遊女みたいなことするわけねぇだろ!」
「遊女に囲まれてたんだ。可能性が全くないっていったら……」
新八が途中で口を閉ざしたのは、背後に恐ろしい殺気を感じたからだ。
その殺気により、まるで吹雪いたかのような冷たさが背筋をなぞる。
新八が懸命にぎこちない笑顔を作りながら、ゆっくり振り向いた。
そこにいたのは、やはり、総司だった。
「新八さん、今なんて?」
裏をたっぷり含んだ眩しい笑顔が新八に問いかける。
嫌な冷や汗を流しながら、新八は片言に答えた。
「いや……なんだ……あれだ!譲がそんな遊女みたいなことするわけないよな〜ってよ」
「そうだよねぇ。新八さん」
明るい声で名前を呼ばれ、新八はびくりと肩を上下させる。
「もちろんだとも総司」
「そう。ああところで、土方さんから伝言ね。“島原の角屋で合流”だって」
その遊郭の店の名を聞いて原田が反応する。
「角屋っていやあ、一見さんお断りの高え店じゃねえか。芹沢が毎晩通ってるという……。あいつそんなところで働いていたのか」
「らしいね」
総司は関心なさそうにそっけなく言うと、すでにその足先を島原に向けていた。