幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
一陣の風が吹き、青々とした木の葉が舞った。
木の葉の時雨が視界をさえぎる。
その景色の間から見えたのは、一人の少女だった。
絹のような長い黒髪を風になびかせ、目を瞑りながらすらりとした手で巧みに胡弓で音を奏でる。
それら全ての仕草に目がついた。
白い肌に、鮮やかな桜模様の着物がよく映えていた。
御伽噺(おとぎばなし)にでもでてきそうな少女だった。
息をするのも忘れて、声も失うほどに見入っていると、少女が奏でていた音色の曲調が変わった。
それを耳にした総司は、そっと胸に手を当てる。
胸の奥が揺さぶられる感覚がした。何だろう。この感覚は。
この、不思議な痛みは何だろう。
総司は曲が終盤に近づくと、一歩、少女に近づいた。
ゆったりと彼女が弦を引き、曲が終わると、こちらの気配に気付いたのか、彼女が顔を上げた。
互いの視線が交差する。
しばらく、二人はそうして見つめ合っていた。