幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜





「譲……!」






「そ……総司……!」








譲が驚きの声を上げるや否や、総司は思い切り譲の身体を抱きしめた。





突然のことに譲の身が固まる。






羞恥で身体が熱かった。







「そうじ……!な……何してるの⁉︎
苦しいから!離して!」








「嫌だ!」







今まで聞いたことのないような、総司の悲痛そうな声。






その表情をうかがい知ることは出来ないが、想像することはできた。







「……もう……、二度と会えないと思った!ここにいなかったら、どうしようって……!」





そう言った総司は身体を離して、譲の手を取る。






その目には譲しか映っていなかった。






「戻ってきてよ」






譲が答えを渋っていると、次々と知っている顔が揃っていった。





「譲!」





近藤がらしくない声を上げ、総司と同じそうに譲の頭をその胸に掻き抱くと、殴ってしまった頬を指でなぞった。







「すまなかった……。俺は、お前に……。俺は……」






座敷にはすでに土方や山南、源さんに斎藤、新八、原田、平助が揃っていた。







みなで譲を取り囲むように座る。







「みんな………」







ようやく近藤の抱擁から解放され、譲は顔を上げ、まじまじとみんなの顔を見る。







「帰ってこい、譲」






近藤の不意の一言に譲は口をあける。




「今……何て……」






「帰ってこいっていったんだよ」








土方が面倒くさそうに言い放つも、その言葉は乱暴そうに見えて、優しさがあった。










「帰ってこい」







賭をしてるとはいえ、みんなが心配でここに来れば、たとえ求められていなくても、無理やり浪士組に居座るつもりだった。だがー。









温かい何かが、譲の瞳から流れ落ちる。






唇が震えて、うまくしゃべることができなかった。






「私……浪士組(ここ)にいて……、いいんですか?」








「ああ……!当たり前だ!お前は俺たちに必要な存在だ」








それは、単純だけれども、言葉にされると一番嬉しいものだった。







譲は涙を止められなかった。








「私……浪士組(ここ)にいたい!」







童のように泣きじゃくりながら叫ぶと、そばで衣擦れの音がした。





目を上げると、土方さんが、左之さんが、新八さん、平助、斎藤くん、山南さん、源さんに近藤さん、そして総司が、譲に手を差し伸べる。







たくさんの優しい手に、譲は心からの喜びの笑みを浮かべた。







「まったく、むちゃするなよ!」





「そうだぜ。俺たちは仲間だ」





「そうよ。なんかあったらすぐに俺たちを頼りな!」





平助、左之さん、新八さんが得意げに言う。





「そうだね。無理はいけないよ」





「ええ、無茶も無謀も、身を滅ぼすといいますしね」






「なんにせよ、あんたが必要だ」






源さん、山南さん、斎藤の言葉。







譲はただ、はい、と満面の笑みでこたえた。














< 222 / 261 >

この作品をシェア

pagetop