幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「譲……!」
「そ……総司……!」
譲が驚きの声を上げるや否や、総司は思い切り譲の身体を抱きしめた。
突然のことに譲の身が固まる。
羞恥で身体が熱かった。
「そうじ……!な……何してるの⁉︎
苦しいから!離して!」
「嫌だ!」
今まで聞いたことのないような、総司の悲痛そうな声。
その表情をうかがい知ることは出来ないが、想像することはできた。
「……もう……、二度と会えないと思った!ここにいなかったら、どうしようって……!」
そう言った総司は身体を離して、譲の手を取る。
その目には譲しか映っていなかった。
「戻ってきてよ」
譲が答えを渋っていると、次々と知っている顔が揃っていった。
「譲!」
近藤がらしくない声を上げ、総司と同じそうに譲の頭をその胸に掻き抱くと、殴ってしまった頬を指でなぞった。
「すまなかった……。俺は、お前に……。俺は……」
座敷にはすでに土方や山南、源さんに斎藤、新八、原田、平助が揃っていた。
みなで譲を取り囲むように座る。
「みんな………」
ようやく近藤の抱擁から解放され、譲は顔を上げ、まじまじとみんなの顔を見る。
「帰ってこい、譲」
近藤の不意の一言に譲は口をあける。
「今……何て……」
「帰ってこいっていったんだよ」
土方が面倒くさそうに言い放つも、その言葉は乱暴そうに見えて、優しさがあった。
「帰ってこい」
賭をしてるとはいえ、みんなが心配でここに来れば、たとえ求められていなくても、無理やり浪士組に居座るつもりだった。だがー。
温かい何かが、譲の瞳から流れ落ちる。
唇が震えて、うまくしゃべることができなかった。
「私……浪士組(ここ)にいて……、いいんですか?」
「ああ……!当たり前だ!お前は俺たちに必要な存在だ」
それは、単純だけれども、言葉にされると一番嬉しいものだった。
譲は涙を止められなかった。
「私……浪士組(ここ)にいたい!」
童のように泣きじゃくりながら叫ぶと、そばで衣擦れの音がした。
目を上げると、土方さんが、左之さんが、新八さん、平助、斎藤くん、山南さん、源さんに近藤さん、そして総司が、譲に手を差し伸べる。
たくさんの優しい手に、譲は心からの喜びの笑みを浮かべた。
「まったく、むちゃするなよ!」
「そうだぜ。俺たちは仲間だ」
「そうよ。なんかあったらすぐに俺たちを頼りな!」
平助、左之さん、新八さんが得意げに言う。
「そうだね。無理はいけないよ」
「ええ、無茶も無謀も、身を滅ぼすといいますしね」
「なんにせよ、あんたが必要だ」
源さん、山南さん、斎藤の言葉。
譲はただ、はい、と満面の笑みでこたえた。