幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
表立った仕事をしない監察方である自分は幹部ではないため、暇を持て余していた。
いつになく静かな屯所で和やかな時をしたたかに満喫していた矢先、廊下から見慣れない人影が鬼副長さんに連れられて歩いてきた。
譲はいそいそと例の句集を懐にしまい込み、だらけた姿勢を整えて平然を装う。
土方に連れてこられてきたのは細めの男と、体格のいい大柄の男だった。
二人の男は譲を見て深々と頭を下げる。
譲も会釈をしたところで土方が話し始めた。
「こいつらはお前の部下だ。今日から入った新入隊士で監察方に配属させる。
山崎は医者の息子で医術の心得がある。こっちの島田は新八と同じ道場で学んでいた旧友らしい。よろしく頼んだぞ」
「え!?土方さん!?」
土方さんはあまりにも端的に説明したあおと急いでいるのかすたすたと去って行ってしまった。
取り残された譲は気まずい空気に包まれる。
どうしたものかと悩んでいると切れ目の男、山崎がもう一度頭を下げた。
「改めて、山崎丞と申します。父は大坂で針医者をしておりました。ふつつか者ですか、よろしくお願いいたします」
そんな山崎に島田も触発される。
「私は島田魁と申します。どうぞ、ご指導ご鞭撻のほど、お願いします」
丁寧な言葉とそぶりに譲は二人に分からないようにため息をつく。
「いや……そんなにかしこまらなくてもいいから。私は龍神譲。よろしくね」
「「はい!」」
律儀な隊士が入隊したものだと思い、譲はしばし思案顔を浮かべる。
ややのち、足元にあったつっかけを履くと、後を付いてくるようにと目で合図をおくった。
視線を感じた二人は慌てて履物をはいて外にでた。