幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
島田が戸惑いを見せていると、譲は抜いた刀の刃先を島田に向けた。
「さあ、島田君も刀を抜いて。大丈夫、殺しあうわけではないから。ただ、私と真剣で一試合しましょう」
唐突な譲の申し出に、少し困惑しながらも、おずおずと上司の言葉に従った島田は刀を抜くと、それを構えた。
同じ流派だからなのか、新八さんと構え方が似ていた。
「あなたの全力を私に向けるのよ。手加減したら承知しないから」
島田が真面目にこくりと頷く。
風が吹くと、なんの合図もなしに二人は駆け出した。
ーそれからのことは刹那の風のごとく過ぎ去り、島田は呆然とした。
刀が交わったと思った瞬間、譲の姿は視界から消えていた。
程なくして背後に気配を感じ振り返って、上段に構えると、すっと冷たい刃が喉元にすっと伸びてきた。
島田は息を呑み、思わず刀を落とした。
決着がつき、丸腰の相手に刀を向ける気はない譲はさっさと刀を戻す。
何が起こったのか理解できず、島田は言葉を口にすることができなかった。
女だからといって、彼女の言う通り、手加減したつもりはない。
相手を潰すつもりで本気だった。
しかし、全くかなわなかった。
まるで自分が子供の素振りをしていたかのような錯覚に陥った。
島田は、譲がただならぬ剣豪だという認識をしたのである。