幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
(俺があの女の部下などありえん!)
鴨川にかかる橋を渡りながら、山崎は急ぎ足で屯所に戻った。
至急、土方さんに聞きたいことがある。
山崎は履物を脱げ捨て、廊下を大股で歩き、目的の部屋へ向かおうとする。
その途中、向こう側から覚えのある人たちが歩いてきた。
(確か……一番組組長の沖田さんと三番組組長の斎藤さん……)
一試合してきたのだろうか、二人の額には薄っすらと汗が滲み、息が上がっていた。
この二人の力に果たしてあの女はどれほど太刀打ちできるのだろうかと考えながら、二人が通りすがる前、山崎は深々と一礼する。
すると新顔の山崎を見た沖田と斉藤は足を止めた。
「あれ……?君は監察方に配属された……えっと……?」
「山崎だ」
「そうそう、山崎君だったねえ」
沖田の言葉に斎藤が補足する。しかし、二人に漂う強者の気迫に山崎は、緊張で身体がすくみあがっていた。
すると沖田がさっそく山崎が気になっている人物の名を持ち出す。
「譲は部下とかそういうの面倒だと思いそうだねぇ…」
「あいつは基本的に自由人だからな」
二人が親しみを持っているかのような口ぶりで話す。
思わず山崎は言葉を挟んだ。
「あの人は……女なんですよ?」
山崎ががっくりと首を落とし、悔しげに手を握りしめていると、沖田の冷たい言葉が飛んだ。
「それがどうしたの?」
山崎が驚いて顔を上げるのをよそに、沖田は続けた。
「譲は君なんかよりずっと強いよ。僕たちでさえ、叶わないことだってある」
「しかし、譲がすでに女であることを伝えているとは……」
思案顔の斎藤に沖田は当然のごとく告げる。
「隊務中に面倒が起きないようにしたかったんでしょ?」
「なるほど」
斎藤が納得いっても山崎は不服のままだ。女が男より強いか同等だと?
そんなこと、信じられるか。
そんな不満を全面に顔に出している山崎に沖田が言い放つ。
「ま、譲を困らせたら、僕が承知しないから」
睨みつけながらそういい、歩き去っていく沖田の後を追おうと斎藤も向かう。
「いずれわかる」
そう手短に言い残して。
山崎にはまだ、その意味がわからなかった。