幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
山崎が去って間もなく、ずっと息を潜めていたのであろう先客が合図もなしに土方の部屋の障子を開けた。
「いいのか?土方さん。入りたての隊士とあんな約束しちまって」
原田が立ったまま壁に背中預ける。もともと、土方には大した用はなかったのだが、偶然にも山崎とかいう隊士が物凄い形相でいたものだから、反射的に姿を隠してしまったのだ。
「いい。時期に嫌でもあいつの固定観念はなくなるだろうからな」
「ああ、間違いねぇ」
薄っすらと笑い流しながら原田は、筆を止めることのない土方を見る。
「で、土方さん……折り入って頼みが…」
「いい。何も言うな。佐々木のことだろう?」
一時的に筆を止め、土方は原田を見上げる。
原田は暗い顔で頷きを返しただけだった。
「あいつらが夜中に逢引きしているのは知ってる。譲が報告してくれているからな」
「そうか」
原田は腕を組んだまま、遠くを見つめるように空を見上げる。
「てめえの隊だ。お前に任せるよ」
「ああ、恩にきるよ。土方さん」
そう言って出て行こうとした矢先、土方は原田を呼び止めた。
「原田、黙認してやるついでだ。譲に家里のことを報告しろ。ついでに山崎とのさっきのやりとりも伝えとけ」
「相変わらず、人使いが荒いな」
苦笑しながら、原田は譲を探すために市中へ向かった。