幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
――――総司が試衛館に来てから、半月がたった。
あれから、総司とは一度も喋っていない。
なぜなら、彼の立場は酷い扱いようだったから。
皆が稽古をしている間は、総司はたいてい庭の草むしりをしていた。
総司とは会うことがほとんどなかった。
たまにすれ違っても、そっけなく頭を下げるだけだった。
だが、総司がそんな態度をとっているのも無理はない。
内弟子だというのに、譲は今まで、総司が稽古をしているところを見たことがなかった。
そう――内弟子という名目であったものの、総司の立場は使用人のような扱いだった。
雑用は全て総司に任される。
もちろん、近藤さんや、周斎先生、自分は自分のやるべきことをしているが、総司は幼く、剣術の心得もなかったために、兄弟子たちに、ここぞとばかりに虐められていた。
総司に雑用を押し付けるのも、兄弟子たちの仕業だった。
譲は知っていた。
兄弟子たちが、近藤さんの目を盗んで、鬱憤晴らしに総司を木刀で痛めつけていることを。
しかし総司は、誰に心を開いているわけでもなかったので、近藤さんに知られることもなかった。
それからもう一つ、自分が胡弓を弾いていると、必ず総司が近くにいるということを。
総司はいつも言葉を交わすわけでもなく、いつも物陰に隠れながら音色に耳を傾けていた。
そして―――、今日も胡弓を弾き始めると、総司の気配が近くにあった。