幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
総司は蹴り飛ばす勢いで、稽古場の扉を押し開けた。
そして、広がっていた光景に目を疑う。
兄弟子たちが木刀を向けていた先には、ぐったりと血を流して倒れている譲。
その手は縛られ、白い肌は赤く腫れあがったり、変色して紫色になったりしている。
総司は頭の中が真っ白になった。
どうして? どうして君がこんなことに?
(息………してるよね)
ちゃんとしてるよね。大丈夫だよね。
そんなことを思っていると、ピクッと譲の肩が動いた。
光が失われていた虚ろな瞳が、こちらを呆然と見つめる。
やがて、その目に色が戻ってくる。
「……そ……う……じ……?」
一つ一つ紡ぐ言葉が、とても苦しそうだった。
見ているこっちまで耐えられなくなる。
「ようやく来たか……」
兄弟子たちの目に、獲物を見つけたときのような光が宿る。
それから、兄弟子の一人が木刀をこちらに投げる。
「かかってこいよ。こいつを取り返したかったらな」
挑発だとわかっていた。
だが総司は、一瞬の迷いもなく、木刀を拾い上げる。
総司の感情は怒り。
兄弟子たちを許せない。
打ちのめしてやる。
ただ、それだけの単純明快な感情が、総司を突き動かしていた。
総司はすっと、木刀を構える。
譲は強い。だが、数人で無防備だった彼女を、しかも手を縛り上げて折檻されては、さすがの譲も何もできない。
総司は、怨念の炎を瞳にたたえていた。
殺してやる。
完膚なきまでに、ズタズタにしてやる!
総司の目の色が変わる。
ただならぬ殺気を感じていたのは、譲だけではなかった。
兄弟子たちもまた、総司の触れれば刺さるほどの殺気に、生唾を飲み込んだ。