幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
土方歳三
「しかし………」
近藤さんは、譲の怪我の様子をみて、怪訝そうに唸った。
「やはりただの喧嘩の割には、重症じゃないか?」
ギクッと、譲の肩がしゃくりあがり、包帯を巻くのを手伝っていた総司の手の動きが止まる。
二人は、冷や汗をかきながら、視線を合わせて、ただこくりと相槌を交わす。
兄弟子たちから怪我をさせられた、などと言えば、近藤さんが激昂するか、悲しむだろうと思った二人は、事前に口裏を合わせて、譲の怪我は、町で喧嘩のしたときにできたものとしていた。
幸い、近藤さんが外出に出ていたため、この話でやり過ごすことができた。
譲は兄弟子たちによって、身体のあらゆる箇所を打撲していた。
女の子なのだから、傷跡をのこすのはよくないという近藤さんの計らいで、怪我を負った翌日に医者がきちんと治療に来た。
医者も、この怪我が尋常ではないことを悟っていたが、何も言及はしてこなかった。
今は怪我を負ってちょうど三日目。
定期的に包帯を取り替え、毎日苦い薬をのんでいる。
剣術の稽古も、さすがに控えるようにしていた。
その一方で、総司は目覚ましい成長を遂げていた。
兄弟子たちに勝って以来、総司の剣術の腕はぐんぐん伸び、たった三日近藤さんに稽古をつけてもらっただけなのに、兄弟子とまともに渡り合えるのだという。
そんなことを聞かされたら、総司とひと勝負したかった。
怪我を負った自分が情けない。
がっくりと落とした譲の肩に近藤さんが、傷に触らないように手を置く。
近藤さんは、やけに笑顔だった。
「実はな……今日、俺の心友が、道場を訪ねてくるのだ」