幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
吉原に着いてから最初は、身売りに来たのかと誤った理解をされ、困惑したが、話のできる人に出会えたことにより、なんとか日雇いで働かせてくれることになった。
ただし条件付きで、その日受け取れる給金は自分が稼いだ分の半額。
だが、譲はそれでも構わなかった。ただ、お金が手に入ればそれでいいと思った。
そして、二日に一度、近藤さんや土方さん、山南さんや総司……みんなに黙って夕刻あたりから試衛館を抜け出しては朝帰りになってしまうほどまで働いた。
残酷な吉原の規律。
許されない自由。
まさに、籠の鳥。
遊女、芸者たちが置かれている残酷な現状。
まるで女が物のように扱われている世界だった。
本当は嫌だった。抜け出したくて、何度途中で帰りたいと思ったことだろうか。
しかし、譲には譲れない覚悟があった。
近藤さんに少しでも恩返しをしたい。
試衛館がなくなったらきっとみんなが悲しむから。自分の居場所をもう失いたくない。
そんな一心でただ、得意の胡弓をかき鳴らした。
すると、譲が奏でる胡弓の音色の美しさが評判を呼び、譲の吉原での位が一気に上がった。
毎日が多忙になり、譲が試衛館にいなくなる日が多いことを不自然に思った土方さんと山南さんにこっそりとつけられ、このことがばれた。
最初は、試衛館の全員に反対された。
中でも一番、反対していたのは近藤さんと総司とつねさん。
けれど、譲は必死に説得した。
試衛館の存続自体がもはや危ういこと。
このままいけば、みな居場所を失うこと。
自分は平気だからこのままでいさせて欲しいということ。
そう訴えると、意外にも山南さんがやや難色の色を示しながらも、突きつけられた現実を冷静に理解し、譲が吉原で働くことに賛成してくれた。
そうすると、近藤さん、総司、つねさんも反対気味ながら、土方さんや山南さんに説得され、しぶしぶ了承した。
そして、今に至る。
譲が支度をしようとしていたのは、吉原に向かうための準備だった。