幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜





「吉原なんて危ないところに、私は今でも譲に行って欲しくない。でも、譲るの言い分も分かる。それに」






しょうがないというように、つねさんは笑った。





「あんたは一度決めると、融通が利かないからね」






譲も図星をつかれて、申し訳なさそうに顔を伏せる。





「す………すみません」







「いやいや、そこが譲のいいところでもあるんだけどね。さあ、今日も稼いできな!【胡弓姫】」




【胡弓姫(こきゅうびめ)】





胡弓から奏でられる美しい音色から譲に付けられた異名。





そのまんまの気がするが、どこか気恥ずかしい。






「か……からかわないでください!!別に、うまくないですし!」






そう叫びながら、譲は自分の部屋に駆けていった。






その姿を見ながら、ふと、寂しげに目を細めるつね。







彼女に自覚があるのかは知らないが、つねは知っていた。







吉原の客は、決して譲の胡弓の音色の美しさだけが目的で譲のもとを訪れているのではないと。





日頃は男装して、髪も短く見えるように細工しているから到底及びもつかないが、彼女が髪を下ろし、きちんと女物の着物を着て、素に戻ったときの姿は、誰もが見とれる絶世の美女と譬(たと)えても過言ではなかった。




































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