幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜







寝返りを打つと、ふと耳の奥で胡弓の音色がよみがえってきた。






どこまででも遠く響いていきそうな美しい音。





水のように清く美しく、青々とした空のように澄んでいて、煌く太陽のように輝いていて、でもそれでいてどこか桜のように儚く、物悲しい音色。





人の心に深く染み入る音色を弾けるのはきっと彼女だけだろう。






でもそんな胡弓も、彼女は男装を始めて以来、ぱったりと弾かなくなった。






弾いてほしいと子供のように懇願しても、彼女は困ったように笑い、答えをごまかす。







しかし、譲は吉原では女装し、しかも胡弓まで弾いている。






あの自分が好きな旋律を、他の性質の悪い酔っ払いどもが聞いているのだと思うと、無性に腹が立つ。








落ち着かないというように何度も繰り返し寝返りをうっていると、蝉の鳴き声が耳をつんざいた。









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