幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
斎藤は譲の姿を認めると、わずかに瞳孔を開いた。
「あんた、どうしてここに?また吉原に出稼ぎか?」
「まあね。でも、随分心配したんだよ。急に試衛館に来なくなったから」
すると斎藤は気まずそうに視線をそむける。
「ああ……すまない。いろいろ……あってな」
小さな声でそう言って、ぎゅっと刀を握り締める斎藤を見て、譲はそれ以上何も問わなかった。
きっと、斎藤にも人に簡単には告げられない事情があるのだろう。あまりそういうのは、無闇に踏み込むものではない。
「そう………。でも、いつでも歓迎してるから、また絶対に来てね」
譲は一生懸命の笑顔で語りかけると、斎藤も釣られて笑みを浮かべる。
「ああ。約束しよう」
といった別れ際、斎藤は何か思い出したように何か一つ呟いて、譲にある包みを差し出した。
その包みを受け取って、譲はくんくんと鼻を動かせる。
「これって………」
目を上げると、斎藤はこくりと頷く。
「ああ。あんたが好きな団子だ。食べるといい」
「ありがとう」
団子といった甘味は譲の大好物だった。
譲は本当に嬉しそうに口角を上げ、無邪気に笑う。
その笑顔を見れてよかったと密かに思う斎藤だった。