幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「失礼します、実風(みかぜ)姐さん」
合図を出すと、ややって、艶っぽい声が返ってきた。
「ああ、譲ちゃんかい?いいよ。入ってきな」
礼儀作法通りに正座で襖を開け、入室するとさっと閉めた。
室内では、この吉原で随一の美女、『実風』が今晩の仕事のために着飾っていた。
『花魁』という、遊郭の中では一番高い位に君臨している、知性と教養に溢れ、誰もが見とれる美貌を持つ女性。
そしてとても心優しい女性。
右も左も分からず、遊郭のことなど何も知らなかった自分に優しく接してくれた人。
遊郭の厳しさも、現実も全部教えてくれた人。
とても尊敬している人だった。また、その性格ゆえに、吉原でも人望は高い。
そこらの男が大枚を叩いても到底相手にしてもらえない存在。まさに本物の遊女だ。