幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「これ、一緒に食べませんか?」
と言って差し出した包みに、実風の目に好奇な光が宿る。
実のところ、実風は人一倍の甘味好きだった。おいしそうな甘味や、絶賛されて巷(ちまた)で噂になっている甘味などがあると、すぐに手に入れようとする。
甘味に対する執念、執着は空恐ろしいものだった。
「あら、いいねえ。この差し入れは、ありがたく受け取ってこうかねえ」
丁寧に髪を結い上げたあと、団子の串を手に取る。
そうして二人で団子を頬張っていると、譲は実風の雰囲気がいつもと違うことに気がつく。
「ん?姐さん、化粧、薄くなりました?」
指摘された実風は、高らかに笑う。
「さすが。察しがいいねえ譲ちゃん。今人気であちこちから逢状が届いている『胡弓姫』にあやかろうと思ってね」
ふふっと、含みを込めて笑う実風が、一体誰のことを言っているのか、譲は一瞬理解できなかった。
だが、追うようにして恥ずかしさがこみ上げてくる。
「………っ!か……からかわないでください!」
「からかってなんかないさ。事実だろう?」