幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
基本、芸者や遊女たちの化粧といえば濃いが、譲は顔に何かをべったり塗る化粧が嫌いなために、いつも薄化粧で済ませていた。
紅もあまり塗らないし、白粉も薄っすらとひくだけだ。
「だって……私、化粧嫌いなんですもん」
「まあ、譲ちゃんはもともと色白だからね。そんなに塗る必要もないんだよ」
すると、急にどうしたのか、クッと、喉の奥から押し出したような笑いが実風から漏れた。
それから耐え切れないというように、実風は肘掛をばんばんと叩く。
「ど……どうしたんですか!?」
慌てて尋ねても、実風はしばらく話がまともにできる状態ではなかった。
必死に笑いを抑えようと、息を止めたりして、ようやく口がきけるようになる。
「いやあ、譲ちゃんがここに来たばっかりの日のことを思い出してね」
「わーーーー!あれは本当に一生の恥ですーーーー!」
それは、譲が初めて吉原に来た時のこと。