幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「そ……総司っ!?どうしてここに!?」
たどたどしい口調の譲。まだ動揺を隠せていない。
「ん?なんだか、目が冴えちゃってね。散歩してたところ」
「そう……」
「ところで君は?今、吉原の帰り?」
「うん……」
譲の気分がぱっとしない。
その理由に勘付いた総司は、にやりとしながらわざとじろじろと譲を見る仕草をする。
もちろん、譲は気分が悪そうに総司を睨む。
「な……なによ」
「いや、数年ぶりに、君の女姿が見られたなーって。でも」
その言葉に顔を真っ赤にさせる譲をよそに、総司は一歩近付くと、譲の髪に挿している高価そうな簪を抜いた。
譲が抵抗しようとするが、すぐにその手を押さえる。
簪を抜かれた髪はまとまって譲の肩にかかる。
一気に女らしくなる譲に、脈が速くなる心臓を押さえ、必死に照れを隠しながら、総司は平常を装った。
「やっぱり、着飾って簪をつけているより、こっちのほうがいい」
「……っ!!」
あまりの恥ずかしさに譲が声を出せないでいると、総司はあるところに目をつける。
「ねえ、その風呂敷の中身……」
いきなり話しを変えられて拍子抜けしながら、譲は自分が肩から掛けている風呂敷を見る。
「へっ?ああ、これね。胡弓が入っているわ」
「弾いて」
「嫌」
「どうして?」
「どうしても」
やっぱり、こういうやり取りになってしまう。
「昔は、弾いてくれてたじゃない。胡弓」
「昔は昔。今は今よ」
「ちぇ……けちだよね」
「………」
「まあいいや。絶対そのうち弾いてもらうからね。さ、帰ろう。夜が明けたら、みんなに女装してる姿みられちゃうよ」
「そうね……。ありがとう」
総司の後についていくように、譲は歩き始めた。
しっかりと歩いてきてくれている譲の呼吸、足音を感じながら、総司はやはりそれでもどこか残念そうに、目を伏せた。