幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
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広い総司の背中。
それをじっと見つめながら、譲は心の中で何度も総司に謝っていた。
本当は、胡弓だって、弾いてと言われれば弾いてあげたい。
きっと総司は自分が吉原で働くことをまだ望んでないし、男装もしてほしくないと思っている。先程の言動から、それらはすべて読み取れた。
でも……自分はもう昔には戻れない。
何も知らなかった無邪気なあの日。
心も、何もかもが真っ白で平和だった日々。
そんな日には、戻りたくても戻れない。
どんなに切望しても、その日々はもう帰ってこない。
自分は変わった。変わってしまった。
胡弓だっていくらでも総司に聞かせてあげたい。
でも……吉原で着飾って、媚売って男に酌をしている自分が奏でる胡弓の音色なんて汚いに決まってる。汚れているに決まっている。
吉原で働いているのは自分が望んだこと。だが総司にも、みんなにも、汚い自分が弾いている音色なんて、聞いても美しくない。
だから………。
(ごめんね……総司)
でもきっと約束する。
いつかあなたの前で、あなただけに聞かせたい音色を奏でるから。
奏でるからね。だから待っていてね。
二人はそれから何事もなく、無事試衛館に着いた。