幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜






試衛館につくと、さっそく平助と、試衛館にいるみんなに『浪士募集』の話をすることになった。








正直、譲は気が進まなかったが、そこはひたすら幕府に対する感情を押し殺して表情を偽る。







平助が全て話終えると、近藤さんが腕を組んだ。








土方さんも山南さんも眉間に皺をよせてじっくりと考えこんでいる。









難しい表情で思案しているのは、何もこの三人だけではなかった。







珍しく、左之さんや新ハさんも目を閉じて、瞑想しているようだった。






難色を示すみんなに、平助が必死に利点を訴える。







「確かに、今すぐには決められねえかもしれねえけど、でも、よく考えてくれ。譲がもう吉原で働かなくてよくなるし、俺たちももっと強くなれる!それに、近藤さんなんて、長年の夢が叶うじゃねえか!お上(かみ)に仕えたいっていう夢が!」









その言葉で、近藤さんの何かが揺さぶられたのだろう。








近藤さんは、いきなり立ち上がった。






「俺は賛成だ、トシ。こんな機会、滅多にないぞ」







答えを促された土方さんが山南さんと頷きあう。






「確かに、俺たちにとっちゃ、利点は多くある。だがこれは、命の保証ができねえ」







そうですね、と山南さんが口を開く。





「将軍警護とありますが、政治の中心でもある京の都には、諸藩から過激派浪士たちが集まり、治安の悪化が深刻です。そこに、布石を投じる策でしょう。いつ、命が尽きても分からぬ状況になります。しかし」





山南さんはくいっと眼鏡を押し上げる。





「こんな機会は、近藤さんの仰るとおり、そうお目にかかれるようなものではありません。私も賛成です。譲さんの疲労軽減にもなりますし」





ふっと譲は山南に微笑みかけられる。





だが彼女は、素直に笑えなかった。





皆が…明日の命も分からぬ状況に身を投じる。




そう考えただけで、あらぬ想像をしてしまったのだ。





みんなが……いなくなってしまうのではないかと。






「わかった。俺も賛成だ」






ついに土方さんも賛同する。






「この道場の他の連中には俺から全部伝えておく」






近藤さんはそう言うと、少し気分が向上している様子で部屋を出た。






「で、左之、新ハ、総司、譲……お前らはどうする?」







土方さんの問いかけに真っ先に答えたのは新ハさんと左之さんだった。







「もちろん、行くぜ」




と二人は声を合わせる気合。






やや遅れて、総司も強い光を目に、頷いた。






「行きます。それで僕が、少しでも近藤さんの役に立つなら」






総司の言葉に、譲ははっとする。






そうだ。みんなの命がどうこうと嘆いている場合じゃない。






自分が皆の命を、この剣で護ればいい。





幕府とか関係ない。自分が命を捧げ、忠誠を尽くしているのは、過去も今も、これからも近藤さんや、仲間だけだ。それ以外の、何者でもない。





近藤さんや、みんなのために、少しでも自分が役に立てるのならば……。






譲は凛とした表情で土方さんを見た。






「私も行きます。行かせてください!」








すると、反論の声が上がった。





まずは平助は譲の肩をつかむ。





「お前が行ってどうするんだよ!今まで働いてきたぶん、ゆっくりやすめよ!」





そうだと揶揄するのは左之さん。




「お前はここで、穏やかにいればいい」






だが譲は、その声を全て振り切る。






「誰も残らないここに私が残って……私に、どうしろっていうんですか!?私は行きます。一人だけ置いてけぼりなんて御免です。私だけ…一人にしないでください。みんなの傍に……役に…立ちたいんです」





(誰かを失う悲しみを味わいたくないから……)




一人がどれだけ孤独か。自分は知っている。だから、置いていってほしくない。みんなの傍にいたかった。







真摯に思いをぶつけると、ぴたりと声が止まった。





誰も、譲が京の行くことに反対する者などいなかった。
























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