幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
第二幕 壬生浪士組
夜空の下、譲はずっと大事にしてきた、龍神家に伝わる宝剣……【龍刀(りゅうとう)】
を、月光の元にかざした。
お父様、お母様、兄上様……村の皆。
私にはこの十二年で、とても大切な人達ができました。
絶対に失いたくない場所ができました。
私はその人たちのため、この刀を血で汚すことになるかもしれません。
そんな風に私が育ったことを、あなたたちは悔いますか?
哀しみますか?
決して答えることのない人達に向かって、譲は空に問いかける。
今日は、本当に綺麗な満月だった。
きらきらと輝いて、青白い光を放つ月。
譲はそっと、刀に、月に、空に願う。
誰も、傷つきませんように。誰も、失わなくてすみますように。
それが、どれだけ無謀で、儚い願いだとしても、祈らずにはいられなかった。
譲は一筋の涙を流す。
この涙の理由は分からない。
ただ無性に、物悲しかった。
この涙を知っているのは、煌々と光を放つ月だけだった。