幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
譲は事の経緯を全て話した。
京の都へ行くことになったこと。
その理由と目的。
自分の決意。
包み隠すことなく、ありのままに話した。
それに実風は鋭い。隠し事をしてもすぐに見抜かれてしまうだろう。
話し終えると、妙な沈黙が部屋におりた。
実風はおもむろに長い前髪を掻きあげる。
そこには何とも言えない複雑な表情があった。
「そうかい。行っちまうんだね、京の都に」
やっと告げられたのか、まるで譲の決意をもう一度試すかのようだった。
揺るぎない覚悟を胸に、譲は正々堂々と頷く。
「はい。私の居場所は、皆の居場所ですから。それに、私……」
「もう……何も失いたくないんだろ?」
心を見透かされた言葉に、譲は思わず涙を流した。
そんな譲の頭を、実風は優しく抱いてくれる。
「まったく……、困った娘だね。昔にどんな辛い目に遭ったか知らないけど、よっぽど、堅い信念が胸にあるんだねえ」
実風は泣いている幼子をあやすように、譲の背中を何度もさすってくれた。
その優しさが嬉しくて、でも別れが悲しくて、譲は揺らぐ感情の中で苦しむかのように泣いた。
本当に実風姐さんに逢えてよかった。もし、この人に目を掛けてもらえていなかったら、自分はもっと過酷な労働を強いられていたかもしれない。
本当に、この十二年の間に、実風姐さんという人に出逢えてよかった。
「あり……が…とう。実風姐さん」
「ああ。いいんだよ。あんたは、自分の信じる道を真っ直ぐに進みな。それが、今の自分にとって本当に正しい答えなら、その通りに進めばいい」
「はい……」