幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
誰もが、芹沢から醸しだされている風格に、一度息を呑む。
只者ではない。
譲を筆頭に、腕の確かな者は一瞬でそのことを悟る。
だが、そこは冷静な土方さんと、山南さん。
呆ける皆を後ろに、二人は芹沢に会釈する。
「俺たちが、あんたたちと一緒に京の都に行くことになった。よろしく頼む」
土方さんがそう言うと、芹沢がなぜかせせ笑った。
その笑い方は、土方さんを……いや、試衛館のみなをあざ笑うかのようだった。
「このような浪人崩れが、俺と共に京の都へいくだとっ!?ははははっ!片腹痛いわ!幕府も、よくもこんな者達を京に向かわせることを許可したものだ!」
散々に罵倒され、皆の目付きが鋭くなる。
譲は煮えたぎるこの怒りをどこにぶつけたらいいのかわからなかった。
だが、ついに我慢しきれなくなり、その矛先を芹沢に向ける。
「ふーん。じゃあ、お偉い武士様は、どんなに人を愚弄してもいいんだ?笑っちゃうよね、こんな奴らがこの国を護っているって思ったら、反吐が出るよ!」
「何を……貴様……!!!」
芹沢の後ろに控えていた者たちが、芹沢のことを罵った譲に刀を抜く。
だが、芹沢は余裕に満ちた笑みを浮かべていた。
その笑いに、不信感を抱く譲。
そして芹沢は、いきり立っている部下たちを手を伸ばして制する。
「ふん……女風情が、何をほざく」
その瞬間、一同に衝撃が走った。
憤怒していた芹沢派の者たちはもちろんのこと、もっとも驚愕していたのは譲たちであった。
たった一瞬で、女だと見抜かれた。
譲の動向を見て、止めようとしていた近藤、土方たちも驚きを隠せないでいる。
譲はまだ、この事実が信じられないというように、己の髪に手を伸ばした。
髪は短く細工してある。
袴も着ている。
刀も差している。
女らしい要素などどこにもない。
今まで、自ら進言しなければ、ばれたことなどなかったのに。
前代未聞の出来事だった。
この日を境に、近藤さん率いる試衛館派と、芹沢派の間には、わだかまりができた。