幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
総司はまだ唖然としていた。
去っていく譲の背を、半身を起こして見詰めていたが、やがて気が緩んだようにばたっと、倒れる。
星明りが眩しい。
総司は星の爛々とした光を遮断するように瞼を伏せた。
(やっぱり……)
君の心は分からないよ。
ただ、あの茫洋とした眼差しを見ていると、触れたくてたまらなかった。
君が僕のことをどう想っているのか知らないけど。
君にとって僕は、単なる心友なのかな。
でも。
総司は、譲が総司の手に自分の手を重ねてきた場面を思い出す。
少しは期待してもいいのかな。
ひょっとしたら……君もって。
いつからだろうかと、総司は過去を振り返る。
いつから、譲への想いに気がついたんだろう。
ううん。必然的だよね。いつの間にか、彼女が傍にいることが当たり前になっていて、傍にいなくなると胸が苦しくなった。
君と僕の境遇は似てるよね。
互いに両親がいなくて、天涯孤独。
でも、近藤さんや土方さん、試衛館の仲間がいる。
君はそれで幸せ?
総司は知っていた。
譲が時々、一人で悲壮な顔をしていることを。
そう。京の都に行くって決めた日だって、君は月のもとで人知れず泣いていた。
君の中にある悲しみを、僕が全部拭ってやりたいのに。
総司は木の葉がかすれる音に耳を澄ませていた。