幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
京の都に到着して二日がたち、譲たちは近藤さんの部屋に召集されていた。
そこで聞かされたのは信じられぬ事実だった。
「え……資金が出なくなったって……どういうことだよ!?」
身を乗り出して真っ先に口出ししたのは平助。
だが平助に限らず、皆の顔にも驚愕の色が色濃くでていた。
譲は口を閉じたまま、ただ一点に近藤さんを見詰める。
近藤さんはこめかみを押さえながら渋面になっていた。
「幕府側の都合でな。俺たちにも詳しいことは説明されていない。俺たちは、自力でここに生き残るしかなくなったのだ。そこでだ」
近藤さんが座布団を吹き飛ばす勢いで立ち上がる。
「今夜、芹沢さんと話し合って、術を編み出す。皆、苦しいだろうが耐えてくれ。そして、剣術の稽古を怠るでないぞ。本当に……迷惑をかける」
(幕府………)
譲は奥歯を噛み締める。
初めから信用などしていなかったが、やはりこのような結末になったか。
将軍の警護、並びに京の治安維持のための浪士募集。
一介の浪人集団に与える金などないというのか。
譲は刀に手を伸ばした。
もう今更、あと戻りはできない。
もし、また生活が苦しくなったら。
いや、生活が苦しくなるのは必須だ。現に、資金が渡されなくなったのだから。
近藤さんや土方さんたちがこの窮地を脱するまでの数日間、自分には何ができる?
自分はみんなにしてあげられることは何?
この剣を奮うこと?
違う。今はそんなことをしても意味がない。ならば――。
譲は自分の胸に手を当てる。
この懐の中に眠っている秘策。
さっそく、お世話になるしかないだろう。
ふと、近藤さんや総司――仲間と言える大切な人達の顔が浮かんで消える。
この人たちをがっかりさせたくない。心配をさせたくない。
なら、自分は内密に働かなければならない。
譲は密かに、そう決めた。