幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜






「しっかし、ひでえ話だよな」








木刀を肩で担ぎ、不平不満をたらしたのは新ハさん。









つい今しがた試合を終えた平助と左之さんも新ハさんの言葉に同意を示す。












「だな。まあ、仕方ねえよ。上の連中にとっちゃ、俺たちの存在なんてその程度のものだろ?」










左之さんはやはり大人びている。








感情的になって不満をたらしている新ハさんや平助とは違って、冷静になっているようだ。










「譲、お前はどう思うよ?」









他の者と木刀の打ち合いをしていた譲は、ちょうど相手の下手さに付き合うのもうんざりだったため、一気に蹴りをつけて、新ハを振り返った。







「どうって?」








木刀と支えにして、譲は稽古場の床に座り込む。









「だから、今回の幕府の俺たちの扱いだよ」








そうねえと、譲は指を顎につけながらしばし考え込み、言葉を選んだ。







うっかりすれば、幕府に対する暴言が延々と出てしまうからだ。








「左之さんの言う通りなんじゃない?私たちにどうこうできるって問題じゃないし、仕方ないんじゃないかな」






「でもよお……」





納得がいかないのか、平助は木刀を回しながらぼそぼそと呟く。







「せっかく、みんな幸せに暮らせると思ったのに……これじゃ前と変わんねえじゃん」








「ま、幸せなんて生温いことを思っているようじゃ、平助もお坊ちゃまだよね」








総司の皮肉めいた言い方に平助は木刀を振りかざす。







「お前に言われるとなんか癪に障るな……」







「いいよ。これで白黒つけようか」








ぎらり、と何やら悪巧みしてそうな目で、総司は壁にかけてあった木刀を手に取る。







「やってやるぜ!」








平助もその提案に乗ったとばかりに、威勢よく声をあげる。








譲は新ハさん、左之さんと共にやれやれと首を振った。










総司の策略にまんまと引っ掛かった平助の悲鳴が聞こえる前に、三人は汗を拭くという口実で道場を後にした。











その後、総司に滅多打ちされた平助の苦悶が道場に響き渡ったのは、いうまでもない。








































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