幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
皆が寝静まったある夜。
「芹沢さんはいらっしゃるか」
芹沢さんの部屋を訪ねていた近藤、土方、山南は、障子を開けて部屋から出てきた人物、芹沢の使いの者でもある平間重助(ひらまじゅうすけ)に、芹沢さんの所在を尋ねていた。
「申し訳ございません。旦那様は今、留守にしておりまして……」
弱腰で弱弱しく、申し訳なさそうに言う平間に、近藤は溜息をつく。
またこれだ。芹沢さんに行方をくらまされた。
昨夜も芹沢さんのもとを訪ねても留守だった。
一刻も争うこの事態を早く収拾せねばならないのに。打開策を見つけなければいけないのに。
いつも温厚な近藤にもかすかに苛立ちが募る。
「そうか。では、いつ頃に戻られる」
「恐らく……明け方になるかと」
「ふざけんじゃねえ!」
後ろに控えていた土方が怒号を上げ、掴みかかる勢いで平間を睨む。
「毎晩毎晩、島原で遊び呆けているのは知ってるんだよ。こちとら急いでんだ。家臣なら、主人の行きつけの店ぐらい知ってんだろ!」
鬼のような恐ろしい形相に、平間がたじたじになる。
「は…はい!た……たしか島原の【角屋】という店に今晩は行っておられると思います!」
芹沢の居場所を吐き出した平間は、もうこりごりだと言わんばかりに部屋の障子を閉めた。
廊下に残された三人は互いの顔を見合う。
「ではその店に、向かうしかないですね」
山南の提案を、近藤も土方も呑む。
だが土方はどこかつれない様子だった。
「それしか……ねえか」
そう言って自分を納得させる。
三人は夜の京の中心地と名高い、吉原と肩を並べる遊郭【島原】へ向かった。