幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
譲は人知れず、自室で袴を脱ぎ、女物の着物を着ていた。
理由は吉原と並ぶ有数の遊郭、島原にあるという【角屋】という店に向かうため。
実風姐さんから直々にもらった紹介状を持って、働くためだ。
普段は細工している髪も全て下ろす。
長い髪は腰まで伸びているので、暑苦しくてならなかったが、丁寧に髪を結い上げて、簪を挿すより、何も髪をいじらないほうが、本当に貧しいのだと信憑性がわく。
だがここは京。
あの幕府でさえも不逞浪士を鎮圧するためにただの浪士を募集していたほどだ。まあ、試衛館の者たちが普通の浪士かどうかは別として、江戸に比べれば危険も多いだろう。
万が一のことを考えて、譲は懐に短剣を潜めた。
そこらへんのゴロツキ程度ならば、この短剣で十分だ。
持ち歩いていた二本の刀を、壁に掛けて、譲は足音を殺して慎重にあたりを見回しながら部屋を出た。
幸い、廊下には誰もいない。
物陰に身を隠し、辺りを窺う。
もうそんなことを何度も繰り返しながら、譲は屯所を後にした。