幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
今宵は綺麗な三日月だ。
星はいつも通りきらきらと輝いて、月とその輝きを競っている。
平穏だ――そう感じずにはいられなかった。
「ほら総司、酒がすすんでねえぞ!」
と少し赤らんだ顔で徳利の口を傾けてくる原田に、障子にもたれて縁側から空を眺めていた総司はひとつ苦笑いをして、膝の上に置いてあったお猪口をもっていく。
たっぷり杯が満たされると、総司はちびちびとそれを呑んでいく。
そんなじれったい呑み方に異を唱えたのは、永倉だった。
「総司、せっかくの酒盛りだ。もとぐいっといけ!俺みたいに!」
手本とばかりに永倉がお猪口たっぷりに酒を一気に呑みほす。
男気をみせた永倉に、平助が拍手をおくる。
「よっ、さすがだぜ!」
おだてられた永倉はますます調子に乗って、ついには徳利ごと手に取る。
「こんなの、俺にとったら、甘酒みたいなもんだぜ!」
そう言って徳利いっぱいにあった酒を一気飲み。
総司は呆れてものも言えなかった。
「はあ……人の部屋でつぶれるのだけはやめてよね」
一応、嫌味っぽく釘をさしておく。
こんなところで吐かれたら、うっかり手が滑って、もう二度と酒が呑めないような致命傷を負わせちゃうかもしれない。
「だいたい、なんで僕の部屋で呑むのさ」
文句を言うと、平助は片手をひらひらと振る。
「いいじゃんたまには。こうしてみんなで呑むのもさ。お前ももっと呑めって」
平助が総司の空になったお猪口に酒を注ぐ。
「大体、何が悲しくて、男四人で呑みあわなければいけないのかな。あ、そうだ」
思いついたように総司は酒を飲み干すと、勢いよく立ち上がる。
「どうして思いつかなかったんだろう!譲を呼べばいいじゃない」
名案だと考え出した自分を自画自賛し、総司は早速譲の部屋へ向かおうとしたが―――。
「おいちょっと待て総司」
総司の腕を掴み、引き返したのは原田だった。
「ん?どうしたの、左乃さん」
あどけない笑みを浮かべて、いや、性格にはいつ左乃の腕から逃れようかと機会を窺っている計算された笑みで、総司は原田に訊き返す。
だが、原田の力が弱まることはなかった。
密かに、チッと舌打ちする。