幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
結局そのまま部屋に連れ戻され、もといた場所に腰を下ろす羽目になる。
総司は自分から進んで酒をお猪口に注ぐと、その杯を月に乾杯するかのように掲げた。
その様子を不思議そうに見つめていた永倉、原田、平助たちも同じように月に向かって杯を空にかざした。
「いい夜だな」
何気なく呟き、原田は酒を口にする。
「ああ、ほんと……綺麗な月だ」
平助も月光に目を細めながらぽつりと囁く。
「何辛気臭え顔してんだよ。いっちょまえに風流なんか感じてよ」
永倉の言葉に原田が長嘆をつく。
「あのな新八、こういう時に風流ってもんを感じるもんなんだ。だから、いつまでたっても女にモテねえんだよ」
平助が腹を抱えながらげらげらと笑う。
「あっははは!あの左乃さんにそこまで言われるなんて、しんぱっつあんも、もう見込みねえな!」
たまらないとばかりにばんばんと畳をたたき出す平助。
総司がぐるりと三人を見た。そして、勝手に解釈する。
顔かたちの整っている美男子な左乃さんは確かにモテる。その上、女心というものをよく理解しているし、女の人たちが放っておくはずがない。
平助も、顔立ちはいい美青年で、性格は少年っぽいけど、モテないわけではない。まあ、土方さんや左乃さんには劣るけど。
あ、ちなみに土方さんは、いつもいつも眉間に皺ばっかり寄せてるからね。
新八さんは…………首から下は美男子だし、まあそのうち、いい女の人が現れてくれると思うよ。
ふふっと笑いながら総司は酒を口に含ませる。
「総司、お前は俺の味方してくれるよな!な!」
必死に助け舟を求められた総司は、そうだねえといいながら空を仰ぐ。
「やめとけ新八。総司とお前を一緒にするな」
「そうだぜ、しんぱっつあん」
「ふふ。じゃあそういうことで、新八さん」
総司は新八に振り返って色香のある男にしかできない―片目を閉じてにっこりと微笑んだ。そこには微塵の哀れみもない。
「くそ……!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!!!今に見てろ!俺がとびっきり可愛い娘を連れてきて、ぎゃふんといわせて………」
あっさり見捨てられた新八は溺れるように酒に入り浸りはじめた。
きっと、このままいったら確実に酔いつぶれるよね。
ま、それはそれで面白いか。
「はいはい。そうそう可愛い女の子はいないと思うけどねえ。一番の近道は、今一緒にいる女の子かな」
何の気もなく言っただけが、原田がつかかってくる。