幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜







「おいおい。そりゃ、譲のことを言ってんのか」







「そうだけど?」







ばんっと杯を叩きつけるように乱暴に置く原田。











これにはさすがの総司も、一緒にその場にいた平助も目を見張る。










ちなみに、永倉はほとんど正気を保っていない。










「譲を物みてえな言い方しやがって……」







据わった目付きの原田。








酔っているのか、それとも本気の目なのか。







総司はなかなか見切れなかった。








「別に僕は……そんな風にいったつもりは」







「言い訳すんじゃねえ!!ふん、小せぇ頃から一緒にいる幼馴染だか何だか知らねえが、譲のてめえだけのもんじゃねえぞ。まるで、自分のものみたいにいいやがって!」








「………………」







総司は悔しそうに歯を食いしばった。






言い返したかったが、返す言葉が見つからないほど、原田の言葉が正論で、心に深く突き刺さった。







譲がずっと一緒にいるのは当たり前。自分の傍にいることが当然。そう思っていた。そうして、優越感に浸っていたときもあったかもしれない。









――譲は自分だけのもの――







総司は自嘲の乾いた笑いを漏らした。







冷静になって考えてみれば、自分がどれほど自惚れていたか分かる。






おふざけも、今回はたいがいにしなければ。







総司は、原田から視線を逸らす。






「そうだね」






素直にそう言うと、原田の目付きが少し穏やかになる。







「ま、敵は多いぞ。頑張れ」







めでたしめでたしと話を終えようとする原田の言葉に総司は首を突っ込む。







「ちょっと待って………それって………左乃さん………」







否定も肯定もせずに、ただ黙々と酒を呑む原田に、奇声を上げたのは平助だった。







「え……ええええええええっ!!!さ………左乃さんも……」








総司は聞き逃さなかった。平助の、うっかりと漏らした語尾に。







「【も】ってことは………平助も?」






そう問い詰めると、平助は面白いほどにあからさまな態度で否定する。顔は真っ赤だ。






「ばっ………馬鹿!!ちげえよ!」





総司はにやりとする。






「へえ。顔が真っ赤だよ?」







「酒のせいだよ!」







「平助って確か……結構な豪酒だよね」






わざとらしく惚ける総司。







「な……今日は月のせいだ!月に酔わされたんだ!」









「へえーーー。そーーなんだー」







全文棒読みの総司。








仕返しとばかりに平助は叫ぶ。







「お………お前はどうなんだよ!!」







「さあ………どうだろうね」









あくまでも答えをごまかし、白ける総司。








「なんだよ!!教えろよ!!!」








「平助、もうやめとけ」






とめられて、平助はしぶしぶ追跡を諦める。







その代わりに、血迷ったようにぐびぐびと酒をのんでいく。









まあ、そんな気分もわからなくない。



























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