君に、青を――

 ドアなんて形だけなんだが、一応ドアから入る。
 ん……?

 オレが居ねェ間に少し落ち着いたのか。泣き止んでやがる。
 目とか、泣き腫らして真っ赤だけどな。

「……あ……」
 サツキがベッドから立ってこっちに来た。

 なんだ? オマエから近づいてくれるのか?

 そのままオレの頭を撫で始める。
 ……へえ。

「君も……連れてこられたの?」
 初めてマトモに聞くサツキの言葉に、オレは思い出した。

 今、オレは人間の姿を取っていない。

「悪りィな。オレだよ」
 言って人間の姿になると……サツキの表情は見る間に変わっていった。

 ……はぁ。オレが小動物に見えたからほっとしただけだったのか。

 サツキを抱えてソファに座らせるとオレも隣に座る。

「オマエ、小動物が居ると機嫌良くなるのか?」
 返事はない。

 ……また泣き出した……。

「分かった。連れて来てやる。犬か? 猫か?」
「……やめてください」

 要らねェのか……。

「じゃあ、お前の母親連れて来てやるよ」
「――!!」

 何気なく思いつきで言った言葉に、サツキが凍りつく。

「ん? どうかしたか?」
「やめて!」

 ……オレに縋り付いてきやがった。どういう心境だ?

「言うこと聞くから! 何でも言うこと聞くから!
 お願い! やめて!」

「おい、落ち着け。どうしたんだよ?」
 言うこと聞くって……オレ、今までコイツに何か命令したことあったっけか?

「オマエ、いつも母親呼んでるし、居れば寂しくないだろ?」

「お母さんをこんなところに閉じ込めたら死んじゃう……お願い……やめて……」
 絞り出すような声で懇願してくる。

 ……ん? そんなことを言うってことは……

「オマエ……ココに居るの、そんなに嫌か?」
「……え……?」
「嫌かって訊いてんだ」

 サツキは泣きながら、
「……お家に帰して……」
 それだけ言った。

 オレは溜息をついてサツキをもう一度抱え上げ、ベッドに寝かせる。
 そして強制的に眠らせた。

 ……ごめんな。人間は一度ここに入ったら、出られねぇんだ。
 死んだ後も、な。


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