ama-oto
 ホームに上がると、あの男が目の前で電車を待っていた。

 「福間さん」

 そんな名前だった。

 「なんだ、彼氏と一緒か?」

 何が起きているのか、いまいち飲み込めずにいた。隣を見ると、いつもの2割増しでふんわりほほ笑むゆかりがそこにいた。

 「キヨくん、紹介するね。高校時代のカテキョ。」
 「福間です。」
 「どうも。高木です。」

 知っているくせに。

 「うらやましいな、平日にデートできるなんて。こっちはレポートやら学部生のゼミの手伝いやらで、ひいひいしてるっていうのに。」

 よく言う。さっきまで菜月といい雰囲気でいたくせに。

 「いいよな、学部生は。自由な時間が多くて。」

 その言葉にカチンときながらも、何事もないように装うことにした。そんな俺の心の内を知らないゆかりは、福間という男としばらく会話を続けた。

< 101 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop