ama-oto
17
 ほっとした気持ちと、諸々の疲れと、アルコールの酔いで、アパートに着くころにはヘロヘロになっていた。靴を脱いで、そのまま玄関にぺたりと座りこんでしまった。窓際に置いた机の上に、今日は忘れたノートが置きっぱなしになっていた。

 ノートが目に入った瞬間、いろいろなことがフラッシュバックした。福間くんがいなかったら、私はどうしていたんだろう。あの場で動けなくなって、怪しまれていたか、見たくない光景を目の当たりにしたか…。

 何にもやる気はしないけれど、とりあえず、シャワーだけ浴びて寝ることにした。今日たまったあれやこれやが、シャワーと一緒に流れ落ちてくれたらいいんだけど、なんて思いつつ、のろのろと立ち上がり、シャワーを浴びた。

顔にあたるお湯になぜか安心な気持ちを覚えた。ざあざあという水音が、雨を思い出させた。雨の向こう側には、清人ではなく、福間くんの顔が浮かんだ。色の変わったジャケットのそで口とか、眼鏡の向こう側のまっすぐな瞳が浮かんだ。

 明日、ちゃんとお礼を言おう。

 髪の毛を乾かし、コップの1杯水を入れて飲みほし、ベッドに向かおうとしたその時、部屋の呼び鈴が鳴った。壁掛け時計を見ると、もうすぐ明日という時刻を指していた。こんな時間にうちに来るのは一人しか思い当たらないけれども、今日は木曜日だ。

 急いで玄関に向かうと、清人が私の名前を呼ぶのが聞こえた。ドアを開けると、ポケットに財布だけ突っ込んできた清人がそこにいた。ニコっと、いつもの笑顔で。
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