ama-oto
 「どうか・・・したの?」
 「来ちゃいけない?」

 かぶりをふった私を、清人がぐっと引きよせた。清人の向こう側で、ドアが閉まる音がした。

 「だめじゃないけど・・・」

 言葉を続けるより前に、清人が私の唇をふさいだ。コーヒーのにおいの間に、どこか柔らかい甘いにおいがした。普段の清人からはしない、柔軟剤のにおい。

 「なんだかさ。菜月が足りなかったから。」

 かちゃりと何か、鍵がかかったような音が、心の奥で聞こえた。

 「そっか。」
 「いつもだったら会えてたのに、会えなかったから。」
 「しょうがないじゃん、お互いいろいろあるってもんだし。」

 ねえ、清人・・・

 「寝るとこだった?」
 「え?」
 「部屋着だから。」

 ここに来る前・・・

 「うん。今日は一日あれこれあって、疲れたし、ぼちぼち寝るかなって。」
 「ごめん、邪魔した?」
 「うーん・・・少し。」

 誰といたの?

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