ama-oto
 私は清人に愛されていたのだろうか。肉体的接触以外でそれを受け取ったことが、果たしてあっただろうか。一方的な愛を送るだけが、恋愛なのだろうか。見返りを求めないのではなくて、お互いの気持ちがあってこそだったような気もする。いや、そんな複雑にあれこれと、意味もなく考えてするものなのだろうか、恋愛ってものは。

 とりあえず、よく分からない。私、いったいどうしたいのだろう。何がしたいのだろう。この問いの答えはなんだろう。

 今日すっぽかしたことと、今日すっぽかされたことは忘れることにした。何もなかったように、何もなかったかのように、普通に一人の夜を過ごし、一日の終わりに清人にメールをした。おやすみ、明日は17時にバイトが終わるから、終わったら行くねという返事が来た。今日の約束ことはひとかけらもない、普通の金曜日のメールだ。

 たまにする、形式としては、きちんとした約束。今日の約束はそういった類のものだと思っていた。すっぽかされる可能性を理解しつつも、講義中から浮足立ち、教室をチャイムダッシュぐらいの勢いで出るなんて、思い返しただけで滑稽だ。恋愛にうつつ抜かすような暇があったら、文献の一つぐらい読めという身分なのに。


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