ama-oto
 こっそり待ち伏せでもしてみようかな。ふと思いついた。

 バイト先のカフェからの道を一緒に歩いたのは、いつだっただろう。そんなに遠くもない過去なのに、うまく思い出せない。けれども、あの日私たちは手をつないで、ゆっくり言葉をつないで歩いた。道行く人を見たり、ショーウィンドウを眺めたりして、遠回りをして私のアパートまで歩いた。

 他愛もない話をしながら、何か特別なことをしたわけでも、特別なことがあったわけでもなかったけれども、心が満たされた幸せな気持ちになった。

 なぜだかふと、そんなことを思い出した。今の私たちがどこかに置いてきたものを、見つけられそうな気がしてしまった。思いついたら体が動いていた。

 適当に胃に食べ物を入れて、毎週末のルーティンである部屋の掃除を、少しだけ丁寧に行った。服を選び、身支度を整えた。化粧をして、髪の毛をアップスタイルにセットした。年相応だけれども、ほんの少し、いつもより気を入れて。

 仕上がった自分を鏡で見ながら、一度だけ見た「あの子」のことをふと思い出した。
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