ama-oto
 なんで、待ち伏せしようなんて思ったのだろう。本当に深く後悔した。

 一言、二言、言葉を交わし、清人とあの子は別れた。ただ、その直前、さりげなく、清人はあの子の頬にキスしていた。照れ隠しだろうか、あの子は清人の腕をバシッと叩いていた。すごくすごく、うれしそうに。柔らかく、温かく、恋愛中なんだなという空気がそこにはあった。

 清人は、たぶん、浮気ではなく本気なのかもしれない。そんなことが頭の中をよぎった。

 私は清人から見えないように、見えない位置に隠れた。隠れる必要なんて、ないのだろうけれども。気分的には泣きたい気分だったが、涙が一切出なかった。むしろ、よく分からない安堵の気持ちがうっすらと湧いていた。やっぱりそうだった、その事実が私の中の何かを開放したのかもしれない。

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