ama-oto
 なぜだろう、こんなほぼ決定的な現場を見た後なのに、優しい言葉を聞いて嬉しい気持ちになるなんて。いや、そんなことをした後なのに、清人は何故私に優しいのだろう。

 「え?本当に?今、どこ?」
 「大丈夫、今、家の近くの公園からかけてる。」
 「行くよ。菜月一人にしておくの心配。」
 「いや、大丈夫、少し休めばよくなると思う。」
 「いや、なに強がってんの?また本の読み過ぎで食事飛ばしたりとかしてたんじゃないの?ダメだよ、行ってご飯作ったげる。」
 「いや、ほんっとうに大丈夫だから。むしろ、片付けが済んでなくて、清人に見せたくない状態なんだ。」
 「え?なおさらじゃん。行く…」
 「いいから、来ないで!」

 半ば強引な嘘をついて、強引に電話を切った。自分の嘘の下手さ、大人げなさにげんなりした。

清人は優しすぎる。こんなウソにも、本気で心配をする。あぁ、きっとまた、あの子犬みたいな目で深く心配しているかもしれない。でも、冷静でいられるか、何をしでかすか分からない自分を清人に晒すのは何より苦痛だ。

 どこかでケリをつけなくてはならないのは分かっているけれども、もう少し落ち着いて物事をとらえられるまで、清人には会いたくない。
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