ama-oto
 「いや、むしろ、彼氏寝ている間に用件済ませようと思ったから。」

 ドキッとした。福間くんの言葉の裏側をほんの少し見てしまったような気がした。確信は持てないけれども。

 「彼氏のバイト先、飲食店なんでしょ?寝ている間に甲斐甲斐しく朝ごはんでも作って、そっと起こしたりするのかな、なんて想像してたけど。その辺、豊崎さん、たぶんちゃんと女子だろうから。」

 返す言葉がなかった。大体あっていたから。

 「で、ちゃんと聞いてたの?」

 ハッとした。この人は毎度毎度私のリズムを狂わせる。どぎまぎしてしまう。

 「何だっけ。」
 「明日、昼休み、ランチごちそうさせて。」
 「あ、それか。うん、分かった。」
 「これ食べたいな、とかある?あんまり高くないもので。」

 金曜日の謝礼の約束をして電話を切った。切ったそのあとも、どぎまぎした気持ちがおさまらなかった。眼鏡の向こうのまっすぐな視線だったり、行動を見抜いたような言葉だったり、大して話したことがないのに、この人はなぜ私のことが分かるのだろうか。それとも自分がベタなことを普通にしている人間なのだろうか。ベッドの上で携帯電話の画面をじっと見つめながら考えてしまった。
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