ama-oto
 「おいしそうに食べるね。」
 「そうかな?」

 そんなこと言われたことなかったな。

 福間くんは、2限の始まる前にちらっと見せた笑っていない目ではなく、心からニコニコした目をしていた。まっすぐ射抜くような視線でもなく、真面目に話を聞くような目でなく、心から楽しんでいるような、一緒にいてちょっとうれしくなるような、そんな目をしていた。

 今まで話すことがあまりなかった分、お互いあれこれ質問合戦のような会話になってしまった。専攻を選んだ理由や院進学の際に大学を変えた理由という真面目な話から、家族のことや普段のことまで、時間を気にしなくていい解放感からか、いろいろ訊いて、いろいろ答えた。

 「豊崎さんってさ、女の子だな~って時と、ガツガツ来るな~って時とがあってさ、見てて飽きないね。」
 「そうかな?」
 「彼氏がうらやましい。」

 頬杖をついて、ほんの少し首を傾けながら、福間くんがそう言った。軽いため息をついて、じっと見られてしまった。眼鏡の奥の目が、ほんの少しさみしそうで、また小さなとげをいくつか刺された。この人、清人とのこと知っているし、分かっているはずなのに、なぜこんな言葉や視線を投げかけてくるのだろう。
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