ama-oto
 月曜日の清人の電話は大した用ではなかったようで、水曜日に家に来てくれたとき、あっさり解決した。普段使っていない分野の内容を、昔のノートを引っ張り出して見なおした。傾向と対策、文献の検索に小1時間付き合った。

 「助かった~。ありがとう、菜月。」

 これぐらいのことぐらいしか、私って役に立てない。いや、ほかにもあるかもしれないけれども、正直、「助かった」とか「ありがたい」と思われるようなことが、あまりにも少ない。そう、私はどちらかというと使えない人間だ。だから、うまく言えずに、飲み込む言葉も多い。

 「ね、菜月。」
 「ん?」
 「頭使ったら、甘いもの食べたくなった。」
 「そうだね。」

 ふふふと笑ってしまった。清人は時々女子みたいでかわいかったりする。甘いものが好きで、辛いものが少し苦手。お酒も飲めるけど、悲しいことに私の方が倍ぐらい強い。だからチョコとかちょっとした甘いものを、切らさないようにしている。テーブルから立ちあがってキッチンへ向かった。

 「アイス食べたいな。」
 「あったかな?」

 冷凍庫を開けたら、ひとつだけ、ハーゲンダッツのミニカップバニラアイスが残っていた。スプーンを1本取って、ソファーに戻った。
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