ama-oto
 「どした、菜月?」
 「いや…ちょっと。」

 アイスを一旦テーブルに置いて、清人は両手で私の顔をまっすぐ自分の方に向けた。ニコっと笑って、アイスのカップをもう一度持って、少なくなったアイスを指ですくった。清人が視線で「どうぞ」と言った。どうしようとためらっていたら、指の上で溶けかけたアイスを自分でなめてしまった。

 「おそーい。」
 「だって…」

 恥ずかしい。こんなこと今まで、あっただろうか…。頬をふくらまして、おどけながら、清人がじっと私を見た。沈黙が少し辛い。ドキドキして体温が2度ぐらい上がってしまったような気がした。別に、アイスを食べているだけなのに、なんだか気恥しい。大したことじゃないのに、今更ながらドキドキさせられて、どうすればいいのか分からない。

 「は、早くしないと…残り、溶けちゃうよ。どうぞ、食べちゃって。」
 「そうだなー…」

 そういって、スプーンをテーブルに置き、持っていたアイスのカップを私に渡した。

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