ama-oto
 「知らない間に、豊崎さんが前にいたからびっくりした。」
 
 ビクッとした。書庫の別の席で文献を読みこんでいたらしい。終わりにして出ようとしたら、私が先に出ていくのが見えたそうだ。

 「ごめん、全く気付かなかった。」
 「俺も、帰ろうとしたら先に階段登ってたからビックリした。」

 知香のメールで忘れていた、ここ最近の雨の日ジンクスが、心の中にうすい雲をかけた。

 「今日は何かいいことあるの?」
 「なんで?」
 「そんな突っかかんなくてもいいじゃん。なんか、ニコニコしながら階段登ってたから聞いてみただけだし。」
 「そっか。うん。今日は久々に会う友だちと飲みに行くから。」

 雨は強くなったり、弱くなったりを繰り返し、断続的に降り続いていた。私と福間くんは傘を開いて、駅への道を歩き始めた。
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