ama-oto
 イラっとして福間くんをにらんだけれども、当の本人はニヤリと笑って、私の方に手を伸ばしてきた。どきりとして、動けなくなった。福間くんの指が私の眉間をそっとなでた。

 「友だちに会うのに、ぶさいくしわ作ってどうすんの。」
 「福間くんって時々すっげームカつく。」
 「そうかもな。」

 眼鏡の奥の瞳が、ほんの少し曇った。

 「何がしたいの?」

 私の質問に福間くんの動きが止まった。傘を打つ雨の音が、雑踏の音をかき消した。

 「何がしたいんだろうな、俺。」

 その答えにまたムカついた。右手をぎゅっと結んで、殴りたい衝動をぐっと我慢した。

 「私をからかってストレスのはけ口にするの、やめてくれない。」

 福間くんは口を結んで、じっと私を見ていた。傘とバッグをぐっと握って、走って駅へ向かった。福間くんが追ってくることはなかった。どうせ、駅に着いてから向かう方向は逆だ。

 なんだか、面倒くさい。福間くん、本当に面倒くさい。
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