ama-oto
 抄読会が終わり、魂が抜けた。そんな気合い入れなくていいことだった。いつも通り、担当は多少苦労するものの、普通に議論は盛り上がり、いろいろ得るところが多い、有意義な会になった。妙なスイッチが入ったことにより、無駄に消費したカロリーのツケが一気にきた。

 机に突っ伏してしばし放心状態でいたら、ノートで頭を叩かれた。

 「そこで寝るな。」

 部屋の鍵を持った福間くんが、隣に立っていた。面倒くさくても、部屋を出なくてはいけないことは確かだ。机の上の荷物をのろのろとカバンにしまった。疲労感が半端なく襲いかかってきていた。容赦ない眠気が両肩にのしかかっていた。

 「眠い。眠い眠い眠い。眠いしか出ない。」
 「はいはい。鍵閉めるよ。」

 忘れ物がないか確認しながら、福間くんは「よくやるよな」とぼそっとつぶやいた。

 「プライベートと勉学は別。」
 「具体的には何も言ってませんが。」

 言っていなくても、言いたいことは何となく分かる。私の顔をちらっと見て、福間くんが続けた。

 「土曜の夕方にデートして余裕かまして、今日のあの議論の進め方、二重人格かよって思った。」
 「ほめてもらって光栄です。」
 「どういたしまして。」
 「んじゃ、お先に。」

 あくびをかみながら、カバンを持って部屋を出た。
< 75 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop