ama-oto
 「豊崎さんの笑ってる顔、何かいいね。」
 「なるべく笑顔を心がけていますけど。」
 「先週はすみませんでした。」

 ほんと、そうだよ。意図するものは知らないけれども、波風ばかりを立てるから、警戒しまくったよ、と心の中で毒づいた。

 「彼氏と一緒にいるの見て、やっぱり彼氏がうらやましくなった。」
 「どういたしまして。」
 「じゃ、図書館寄って帰るから、ここで。」
 「じゃ、また明日。お疲れ。」

 福間くんは図書館の方へ、私は駅の方へと別れた。眠くて重たかった足取りが、ほんの少し軽くなった。

 アパートについて、靴を脱いで、連日の疲れから解放された私は、顔だけ洗って、布団にくるまった。

泥のように眠った。深く深く、何もかも忘れて、アラームが鳴るまでぐっすり眠った。
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