ama-oto
interlude
 その人は、静かに泣いていた。名前も知らない、たまたまお互い待ち合わせか何かで、隣合わせになっただけだった人。駅前広場のベンチで、隣のベンチに座っていた、このあと人生上交わることはない、ただの通りすがりの人。

けれども、静かに泣くその姿に、目を奪われてしまった。

 待ち人が来たらしく、声をかけようと踏み出して、すぐとまったしばらく立ち止まり、まっすぐに一組のカップルを見ていた。頬に涙の筋が1本、すっと流れた。

 視線の先には、よく知っている女性が、全く知らない男性と一緒に歩いていた。

 俺はすぐに状況を理解した。

 『悪いけど、ゆかりちゃんの気持ちには答えてあげられない』

 よく知っている女性、それは別れた彼女の妹だ。

 彼女とは、大学2年の時から1年間付き合っていた。けれども、その三分の一は、彼女の妹である、遠山ゆかりにより、苦い記憶になっている。そして、遠山ゆかりにより乱された僕らの関係は、ゆっくりとフェイドアウトしていった。ハッキリした別れ話をしたわけではないが、お互い連絡を取り合うことを避け、会うことを避けているうちに、彼女は就職活動、俺は大学院進学の準備に入ってしまった。

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